地域編集のこと

第14回

「トビチmarket」を編集した人たち 前編

2020.01.10更新

 長野県辰野町で開催された「トビチmarket」。地域編集のよき事例だと思った僕は、イベントを主催した一般社団法人「○と編集社」(まるとへんしゅうしゃ)の二人と、搬出作業の最中に立ち話。ビジョンがカタチになっていく編集のチカラと、そこに欠かせないチームプレイまで、学び多き二人の会話をシェア。


代表理事/赤羽孝太さん(38歳)
理事/奥田悠史さん(31歳) インタビュー

藤本 トビチマーケット本当にいいイベントだったー。

赤羽・奥田 ありがとうございます。

藤本 盛況だったね。

赤羽 初めて見ました、祭り以外であんなに人がいるの。

奥田 商店街にね。湧いてくるように。

藤本 僕も、秋田で「いちじくいち」やってるのでわかるけど、普段は全く人いないのに朝10時に500人の行列ができたりするから、地中からゾンビみたいに出てきたんじゃないかって思う。

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赤羽・奥田 ははは!

藤本 でも、それだけ来てくれたってことは、やっぱりみなさん求めてたんだね。

奥田 そうですよね。いいお客さんも多くてうれしかったです。

藤本 そこがすごい。僕も「いちじくいち」やるとき、地元のメンバーに「フランクルトや焼きそばとか禁止ね」って言ってて、なんだかおこがましいけれど、それは「地域のお客さんを育てる」ってことを意識してるからで、同じくトビチマーケットもそこにチャレンジしてるなあって。

赤羽 10年ぐらいかけて文化を作っていくしかないと思うんです。いいものにはちゃんとお金を払うという意識をもってもらうようにならないと、そもそも僕たちの仕事がそういう業態なんで、そうしないと多分この町で食べていけないんですよね。なので10年後にちょっと食べられるようになったねってなるために、この町の人がいいものに触れる機会を増やしてくしかない。僕たち自身で。

奥田 辰野町は規模感的にも動きやすかったと思います。人口は1万9千人くらい。そのなかで、文化っていうか文脈みたいなものを理解してくれる人を増やそうっていうことで、毎月「ディビジョンラボ」っていう勉強会みたいなのも開いてるんです。簡単に言うと、自分の偏愛を語る場で、例えば日本茶好きの人が玉露はなぜ甘いのかとか、個人的に造詣の深いものをみんなとシェアするっていうのを毎回無償でやってるんです。

赤羽 みんなで千円ずつ出し合って飯食うみたいな。

奥田 だから利益はない。だけどそれが大事だなっていうか。そういうところから、享受するだけの消費じゃなくて、知らないうちに自分の頭で考える消費に変わってるっていうのが最高だなと。

赤羽 そのためにも入り口を下げて楽しくやろうぜって。

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藤本 今回僕も、タイガー魔法瓶さんと12年かけて作った「&bottle」とか、微生物のチカラで生まれた身体にやさしい消臭剤とか、商品の背景を説明するしないで大きく印象が変わるものばかり持って出店させてもらったけど、何よりお客さんたちが、きちんとその話を聞いてくれたなあという印象。だからいま目の前のそれが必要なくても、世の中にある商品の値段の意味や理由みたいなものを想像してくれるようになるんじゃないかって思った。

奥田 そうですよね。ありがたいです。とにかくお客さんの顔がよかったですよね。みなさんいい笑顔で。

藤本 地方の画一的な消費に対して、どこかで違和感を感じていた人たちが、このイベントのことをちゃんと気にして集まってくれたんだろうなあ。そういう意味では期待をもって来てくれたお客さんを満足させることができたんじゃないですか。うちに限らず、京都や東京やらいろんなところから出店されてたけど、お店のディレクションきっと大変だったよね?

奥田 そうですね。いろいろ声掛けして、来ていただきました。

藤本 こういうイベントって、行政っぽい空き店舗活用みたいになっちゃうと、自己満足で内向きな手作り市みたいになっちゃいがちだから。

赤羽 幸いにして行政の方も今は、やる気のあるところに対する後方支援にまわってくれるので、そこらへんのところはすごく相互理解ができているんです。特に辰野町の場合は3〜4年くらい、そんな感じで関係性を築いてこれているので。だから今回も町と共催になっていてお金も多少入ってるんです。ただ、それも消耗品と原材料費っていう名目。つまりテーブルとか看板とかを木材で買わせてくれて、加工は僕たちがやる。でもこれはあくまでこのイベント用の原材料費だから、僕たちが加工して出来た什器やら何やらは、行政が保管しておく義務がなくて、商店街に置いておけるんですよ。だから、逆に今度、行政が何かやりたいっていうときに、使ってもいいよ、ぐらいの。

藤本 そういうやり口って大事。

赤羽 そこらへんの、うまくやるところを組み合わせながら。

藤本 お互いのメリットがあるもんね。役所は役所の強みがある。

赤羽 そうなんですよね。

藤本 それをお互いが利用しない手はないし。そもそもそこが敵対している地域って多いなあと思っていて、でもそんな関係性のプロジェクトでうまくいってるの見たことない。

赤羽 そうですよね。

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ー次回後編につづくー

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

編集部からのお知らせ

Re:Standard Pop-Up Store 旅する「りすなお店」&藤本智士さん出演トークイベントが岐阜県と島根県で開催されます!

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 Re:Sプロデュース商品を中心に、旅する編集者・藤本智士がセレクトする「旅に便利なアイテム」や「日々の暮らしがまるで旅になるアイテム」を販売する『りすなお店』のPOP-UP STOREが全国を巡回!
 普段はオンラインでしか買えない商品たちをぜひ手にとって、お買い求めください。
今回のPOP-UP STOREのテーマは「Let's share!」。

パーソナルな心地よさもよいけれど、共有するからこそ味わえる喜びを提案します。


①Re:Standard Pop-Up Store 旅する「りすなお店」 @KAKAMIGAHARA STAND (各務原市)

会期:2020年1月17日(金)〜2月2日(日)
   ※木曜休
営業時間:10時〜19時 ※土日は21時まで
会場:
KAKAMIGAHARA STAND (岐阜県各務原市那加雲雀町10-4)

***

トークイベント:「イメージを形にする編集のチカラ」

出演者:ゲスト・藤本智士 モデレーター・オゼキカナコ
日時:2020年1月17日(金)
   19:00 受付開始
   19:3021:00 トークイベント
   21:30 閉店
参加費:¥1000 + 1drink order 当日、会場で現金にてお支払いください。

オゼキカナコ
ライフスタイルショップ「長月」オーナー
一般社団法人かかみがはら暮らし委員会 理事
お店をやりながら、コミュニティや暮らしを楽しくする活動をしています。
ミニマルな暮らし、野食、テクノロジー、社会的マイノリティに関する活動などに興味があります。
趣味は知ること、考えること、伝えること。noteで実践中。

イベントの詳細・トークイベントのお申し込みはこちら


Re:Standard Pop-Up Store 旅する「りすなお店」 @artos Book Store(松江市)

会期:2020年1月26日(日)~ 2020年2月9日(日)
期間中のお休みはartos Book Storeさんのカレンダーをご確認下さい。
営業時間:11時~19時 最終日は17時まで。
会場:アルトスブックストア (島根県松江市南田町7-21)

***

トークイベント:「藤本編集長と三浦編集長の地域編集のはなし。」

出演者:藤本智士、三浦類
日時:2月1日(土) 18時~
参加費:1,000円

定員に達し次第受付終了となります。受付状況は店舗へ直接ご確認ください

三浦 類(みうら るい)
 1986年愛知県名古屋市に生まれ、いろんなところで育つ。(株)石見銀山生活文化研究所/群言堂 広報として石見銀山大森町のローカルフリーペーパーでもある企業広報誌『三浦編集室』(旧『三浦編集長』)をつくる。会社の事業内容や商品ではなく、本拠地である石見銀山の暮らしを大切にする理念の発信を通して、これからの地域社会のあり方や若者の生き方を考える誌面づくりを目指している。2019年、5周年を機に誌面をリニューアルしたばかり。現在年4回のペースで2万5千部を発行、全国60カ所以上で配付中。趣味はフラメンコギター。

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