第84回
サーキュラーシティ、蒲郡
2025.10.13更新
友人に案内してもらって、愛知県の蒲郡市に行ってきた。蒲郡と言えば、「森、道、市場」という、いまや大人気な野外フェスイベントの開催地。毎年5月下旬の3日間、会場である蒲郡市のラグーナテンボスという遊園地に、日本全国から約600店舗の飲食・雑貨・クラフトショップが集まり、お客さんの数は6万人にも及ぶ。
そんな森、道、市場には、僕自身、お客さんや、ときに出店者として幾度か参加しているが、とにかく全国の友人たちが大集結するイベントでもあるので、毎回、同窓会のような気持ちで訪れるのが常。それゆえ、まっすぐ会場にむかえば、あとはひたすらイベントを楽しんで帰ることしかなく、会場の外に出て、蒲郡の街をゆっくり巡ることなどこれまで一度もなかった。
しかしいま、蒲郡の町が他の自治体からとても注目されているという。それは、蒲郡市が2021年11月に「サーキュラーシティ」宣言を行ったことに端を発する。
資源採掘→生産→消費→廃棄という、従来型のリニア・エコノミーではなく、廃棄物が出ないサーキュラーエコノミーの仕組みを地域全体で構築しようと、現市長が旗を振り、それに賛同する企業の人たちが、それぞれにアクションを積み重ねてきた結果、それらの事例が少しづつではあるが可視化されてきている。サーキュラーシティというビジョンを真ん中に据えることで、実際に、市内外の産業や住民同士が交わる場やネットワークも生まれつつあり、そのことに詳しい友人が、今回、二日間かけて、街を案内してくれた。
森菊さんという1897年創業の総合繊維商社では、繊維のデッドストックを再価値化して製品開発を行っていたり、愛知名物きしめんの製造などを手掛ける、1917年創業の製粉・製麺会社、金トビ志賀さんでは、製造過程で出る廃棄物を活用してクラフトビールを制作するなど、それぞれがそれぞれの課題に対するサーキュラーな解決策を自ら考え実践している。また、それらに取り組む人たちの言葉がみなさんとても前向きで、これからの時代にむけた事業のあり方として、この方向性は間違いないという確信のようなものを持たれていることを強く実感した。
ほかにも、カーテンを製造するサンローズさんでは、刺しゅうやビーズ、スパンコールなどの装飾が、再利用を難しくさせていたレースカーテンの端切れ生地をウェディングドレスにアップサイクル。地産地消の料理や、食べ残しを出さない工夫など、環境配慮を意識した、サステナブルなウエディングプランを提案する、蒲郡クラシックホテルでそのドレスが活用されるなど、同じ方向を目指す企業同士のコラボレーションも生まれていて、なんと素晴らしい試みだろうと思う。
このウェディングドレスの事例が象徴するように、廃棄物だったはずが、一転、憧れの眼差しを向けられるプロダクトに変化する、まさにシンデレラストーリーのごとし物語は、多くの人を惹きつけるに違いない。しかもそれらすべてが、「こういうことをやってみたいんだよね〜」ではなく、「やってみたんです!」という実践ばかりで僕は心底感動した。
途中、蒲郡市役所のサーキュラーシティ推進室にもお話を伺いにいったのだが、肝は市民への浸透だとおっしゃっていて、なるほどなと思う。確かにこういった未来のビジョンは、目先の損得とは距離が遠いゆえ、わかりやすい成果を求めがちな市民に本質的な理解を浸透させていくのはとても難しいし、時間がかかる。しかし、どうか諦めず、日本で初めてのサーキュラーシティ宣言都市として、道を拓いてほしいなと願う。
そんなことを思いながら、蒲郡での有意義なインプットの連続に圧倒された頭を整理するべく、少し甘いものでも食べようと「スズキプランタン」というケーキ屋さんに立ち寄ったときのこと。
あまりに美しく美味しそうなケーキを前に、それぞれに好みのものを物色していたのだが、季節のフルーツを使った色とりどりのケーキが並ぶショーケースの隣に、サーキュラーシティを象徴するような商品を見つけて、ずいぶん感激してしまった。
それがこちら。
「ケーキのきれはし」と書かれたそれは、店に並ぶ華やかで美しいケーキたちの製造過程の切れ端部分の詰め合わせだった。迷わず友人たちとそれらを購入し、食べたのだが、なんと美味しかったことか。ケーキは見た目も大事なのはもちろんだが、このきれはしは、お誕生日でも、何かの記念日でもない、日常の小さな贅沢として、この街で暮らす人たちに、ちょっとした幸福を提供しているに違いなかった。蒲郡市のサーキュラーシティ宣言は着実に市民に届きはじめている。