第3回
バカナス
2018.07.20更新
こんにちは。スガヒロヤと申します。ミシマ社自由が丘オフィスに、デッチとして通っております。
このたび、オフィスの庭で、小さいトマトを育て始めました。今回はそのきっかけについてお話しさせていただきます。
あれは先月初めのとある午前中、きれい好きなオカダさんの指令で草むしりをしているさなか、次の草をむしろうと、雑草の中ではひときわ背の高い植物に手を伸ばしたその瞬間でした。小学校の学級菜園で見覚えがある、ふちがギザギザしている細長い葉と、緑の、パチンコ玉よりひと回り小さい実をつけているのが目に入りました。うわ、なんでこんなとこにトマトが。ひっこぬくところだった。あぶない。
ただ、何かがおかしいのです、土からまっすぐ伸びる、枝分かれしていない一本の茎から、垂直に枝が7、8本生えているこの「トマト」。発見した時点で、枝の1本1本に、それぞれ5、6個の実がぶら下がっていました。つまり、すでに全体では50個近く実がなっているのです。水、あげてないのに。トマトってこんなにたくましかったっけ。小学校でボクが育てたトマトは実がなる前に枯れたのに。それになんか実が硬すぎる気もする。
それでも葉っぱは、確かにむかし見たトマトと同じ形をしています。いっしょに草むしりをしていたデッチのスミさんと相談して、とりあえず「トマト」は残しておくことにしました。
やがてお昼ごはんの時間になり、「トマトを見つけました」と報告しました。ホシノさんが「まだ生き残ってたんだー」と笑いました。数年前、自由が丘のメンバーでトマトの苗を植えたのですが、当時のデッチさんが草むしりをしたときに、雑草といっしょに抜いてしまったそうです。ああ、あれはやっぱりトマトだった。思った通りだ。とっといてよかった。
食卓(ちゃぶ台)はトマトの話題で盛り上がり始めましたが、ノザキさんが『いのまま』という漫画の1ページを示すと、みんながクギづけになりました。作者のオカヤイヅミさんが描いた、「プチトマトのおひたし」が、タッパーにつめられた宝石のようだったのです。「おお、トマトのおひたしなんて初めて見た、これは食べてみたい、ノザキさんに作ってもらおう、そのためにはトマトが必要だ」ということで意見は固まりました。『いのまま』ではタッパーの中に、16個のトマトが描かれていたことから、私はトマトを16個収穫することを高らかに宣言しました。イケハタさんの歓声を浴びながら、私はほくそ笑みました。もう50個近く実がなってるんだから、ほうっておいても16個は赤くなるだろう。
次の週、オフィスへ着くと、私のもくろみは暗転し、この「トマト」が赤くなる日は永遠に来ないことを悟りました。緑だった実が、たった一週間にしてすべて真っ黒になっていたのです。あれ、トマトって緑→黒→赤の順番で熟すんだっけ。小学生時代を必死に思い返しましたが、どうしても黒くなっているトマトを思い出すことができません。モリさんがこの植物をスマホで写真に撮り、アプリで調べてくれました。その結果、この黒トマトの本当の名前は、「イヌホオズキ」であることがわかりました。しかも毒ありです。浮かれていた一週間前の自分が哀れに思えました。数年前に植えたトマトは、とっくのとうに引っこ抜かれていたのです。
もっと調べると、イヌホオズキには、「バカナス」という別名があることも判明しました。きっとナスみたいな顔をしているクセに、毒があって食べられないから、むかしの人が怒ってつけたのでしょう。幼稚園にいたとき、「♪バーカアーホドジマヌケー、オタンコナスカボチャー」という歌詞の、モーツァルトの替え歌が流行ったのを思い出します。自分が罵倒されているような気がしました。
しかし、16個収穫宣言をしてしまった以上、なんとしても実現しなければなりません。バカナスのことは忘れなければいけません。
ということで、バカナス発覚の翌週、私のバイト先の植物好きの先輩から、正しいプチトマトの苗をもらって、さっそく庭のいちばん日当たりがよさそうな位置で、あらためてトマト栽培をスタートしました。今ではすっかり背が高くなり、添え木(デッチのソメタニさんが庭の柿の枝から作りました)に絡みついています。トマトは添え木がないと、自分の実の重さで、茎が折れてしまうのです。
肝心の実は、現在3つなっています。どれもまだ緑です。
そんなこんなで前途多難なトマト作りですが、16個収穫して、プチトマトのおひたしを食べるその日まで、わたくしデッチ・スガの挑戦は続きます。暖かく見守っていただけると幸いです。よろしくお願いいたします。
自由が丘メンバーのみなさま、私がいないときはトマトに水をあげてください。
(つづく)