第66回
今年の一冊座談会「とにかく熱中した一冊」(1)
2024.01.12更新
こんにちは! 自由が丘オフィスのスガです。
ミシマ社では毎年年末に、メンバー全員がその年に読んだ本からおすすめの一冊を持ち寄り、その魅力をプレゼンする「今年の一冊座談会」を開催することになっています(昨年の記事はこちら)。
昨年も12月某日に、自由が丘・京都各オフィスで行われました。ミシマガ編集部・スミから指令があり、テーマは「とにかく熱中した一冊」となりました。このストレートなお題に、各メンバーがイチオシの本を語ります。
本日は自由が丘オフィスの模様をお届けします!
ホシノが選ぶ『今年の一冊』
ホシノ 京都オフィスでも誰かが選んでいるような気もするのですが、圧倒的によかったので、津村記久子さんの『水車小屋のネネ』を選びました。500ページ近くあって、それでもまだ続いてほしい、という気持ちになるぐらいの名作です。
ホシノ 高校を出て進学する予定だった主人公が、お母さんに入学金を使われてしまって、それ以外にもいろいろなことが積み重なった結果、8歳の妹を連れて家を出るところから、物語がスタートします。お蕎麦屋さんの離れを借りて住み込みのようなかたちで働き始めるのですが、そのお蕎麦屋さんを中心にして、まわりの人たちの小さな親切が連なって、その姉妹が大人になっていって、またその姉妹の小さな親切が、まわりの誰かを助けていくという、その営みが40年分描かれていきます。
うまく言葉にするのが難しいのですが、どういう状況であれ、起こっていることを誰かのせいにするのではなくて自分に尊厳を持って生きるというか、人間関係とか、ままならないことがあるなかで、それに対していじけずに、自分にできる小さな親切を人にして、淡々としているけど、譲らないものは譲らないという生き方の機微が描かれているように感じました。
スガ 平川克美先生が、「責任を引き受ける」という言い方をされていることと近いですかね?
ホシノ そうだね、そう思います。本当の意味で自分に責任を持つというのはどういうことか、というふうに私は読みました。ちなみに「ネネ」というのは、蕎麦屋さんの水車小屋に住んでいる、しゃべったり歌ったりする鳥なんです。それを言ったらどの小説もそうですけど、何にもない0のところから、この姉妹や、お蕎麦屋さんをめぐる人々、ネネのキャラクターができあがって、彼らの40年分の物語が動くということが、素朴に、すごいことだなということも思いました。
サトウが選ぶ『今年の一冊』
サトウ 内田樹さんと三砂ちづるさんの『気はやさしくて力持ち』を選びました。
サトウ 私のデスクのすぐ近くに三砂先生の本がずらりと並んでいるのをもう5年くらい背表紙を見続けていて、ついに最近一冊を読み始めたところに、星野さんがこの本を社内ですごいと言っていたので、気になって立て続けに読みはじめました。
子育てについて往復書簡の形で書かれているのですが、子どものことだけではなくて人間が成熟することについていろいろな角度で書かれています。私の「子育て」のイメージは、子どもに対して言葉を尽くして丁寧にかみ砕いて説明してあげるっていうのが普通なのかなと思っていたのですが、言葉じゃ簡単に言い表せないことは話さない方がいいと書かれているのが印象的でした。特に性教育や宗教・政治の話は家庭でしない方がいい、と内田先生も三砂先生も言っていて、それは人によって捉え方も違うことだし、言葉じゃ説明しきれない。もし子どもにそのことについて聞かれたら、三砂先生は人生をかけて説明すると書かれていて、私の身近にそういう接し方を子どもにしている人がいたので、そういうことなんだなとすごく実感しました。
ホシノ 私もその本を選ぼうか迷ったぐらい、すごく良い本でした。やっぱり読む人によって感じる部分が全然違うんだなと、佐藤さんの話を聞いて思って、そこがすごい面白かった。
スガが選ぶ『今年の一冊』
スガ 紹介するのは澁澤龍彦さんの『快楽主義の哲学』です。9月に福島へ出張したときに、みどり書房桑野店さんの書店員さんに紹介していただいた『八本脚の蝶』の中で紹介されていることがきっかけで出会いました。
スガ 澁澤さんは硬派な文芸評論家のイメージが強いので、文章が難しいのではと警戒していたのですが、哲学の入門書として読んでもおもしろい。「幸福と快楽の違い」や、「東洋の快楽は自然と同化することで、西洋は自然を征服することである」という話など、自分の感覚と照らし合わせながら哲学を知ることができます。
読みやすさは、この本が元々新書レーベル「カッパブックス」の本として刊行されたからと思われます。知識人たちが普段文芸書を読まない読者の方にも届くハウツー本を次々に出し、新書ブームの火付け役となったレーベルです。そして、私がこの本で受けった「人生のハウツー」は、「自立しろ! 自分の快楽は自分で選んで自分でつかめ」ということです。理念や目的に身を委ねたり、まわりに期待をするのではない。本当の楽しみに気づくために、来年は自立をテーマにやっていきたいと思います!
ホシノ、サトウ がんばって!(笑)