第37回
今年の一冊座談会「思いがけず出会った本」(1)
2021.12.28更新
ミシマ社では毎年恒例となっている「今年の一冊座談会」(昨年の記事はこちら)。
今年のテーマは、10月刊『思いがけず利他』(中島岳志さん・著)にちなんで、「思いがけず出会った本」としました。
幅広いジャンルの書籍が集まっただけでなく、その本との「思いがけない」出会いのエピソードも飛び出し、大いに盛り上がった座談会。本日は自由が丘オフィスの模様をお届けします。
みなさんも、今年出会った本たちを思い返しながら楽しんでいただけると嬉しいです。
スガが選ぶ『今年の一冊』
スガ 私が選んだのは、進化生物学や統計生物学を研究されている三中信宏先生の『読む・打つ・書く』という本です。本についての本なんですけど、馴染みのある「読む」と「書く」の間に「打つ」という意外な単語があることにグッと掴まれて手に取りました。その「打つ」は「書評を打つ」ことで、「息を吸えば吐くように、本を読めば書評を打つ」をモットーに、読書生活に「打つ」も取り入れることをおすすめされています。書評することの実用性と創造性に気づかされ、打ってみたくなること間違いなしです。
本日のテーマの「思いがけず」といえば『思いがけず利他』ですが、『読む・打つ・書く』にも「利他」や「利己」という言葉が繰り返し出てきます。本の中で、本当に何回も「役に立ったら望外の喜びです」という表現が出てくるんです。「読む・打つ・書く」はすべて利己的にやるものだと繰り返し書かれています。だからこそ、例えば本を書くときには、ご自身が後々参照しやすいように末尾の文献リストや索引をすごくこだわって作られているのですが、そのことが読者の役に立つこともありますよね。自分が読みたいけど世の中にない、という理由で書いたニッチなテーマの本も、誰かのためになるかもしれず、そうなればが望外の喜びだと書かれています。他にも、個人蔵書を処分する必要に迫られた際には、目利きの古書店に売り払って、必要な人の手に届くようにするのが恩返しだという話があったりと、終始、本と利他の関係が考察されている本であると感じました。
イケハタ この本はどこで思いがけず出会ったの?
スガ 理工書売り場で平積みされていたのですが、本のカバーとPOPに毛筆が使われていたのが印象的で、理工書はめったに買わないですが思わず立ち止まりました。
モリ この文字で「打つ」だと博打の話かと思うよね。
スガ 僕も手に取るまでは、破天荒な理系研究者の話なのかと思ってました(笑)。
イケハタが選ぶ『今年の一冊』
イケハタ 私の「2021年、思いがけず出会った本」は佐藤究さんの小説『テスカトリポカ』です。分倍河原(東京都府中市)のマルジナリア書店の店主・小林さんと「マヤ暦とSFが好き」という話をしていたらおすすめされたのが出会いでした。550ページ超の鈍器本にふさわしい厚みと強烈な表紙で「なんかヤバそうな本だな・・・」と怯みつつも、謎の衝動に突き動かされて購入。そして読み始めたら止まらず、連日ほぼ徹夜で一気読みしてしまいました。その後、直木賞・山本周五郎賞W受賞で話題にもなり、ご存じの方も多いかと思います。
モリ マヤ暦とSFって(笑)
イケハタ 古代アステカ、現代のメキシコ、ジャカルタ、そしてカワサキを舞台に壮大なスケールで繰り広げられる、麻薬カルテルのボス、臓器売買をする闇医者、無戸籍の混血児...たちの物語。息を呑むほどに圧倒的な暴力描写。ページを繰る手が止まらないサスペンス。すべてを兼ね備えた特大傑作です。特別に小説好きでない私でも一気読みだったので、もうみんな読んでください!
モリ 貸してください。読みます!
サトウが選ぶ『今年の一冊』
サトウ 私は今回はじめて芸人さんの本を読んだんですけど・・・ハライチの岩井さんの『僕の人生には事件が起きない』です。出会いは、誕生日のときに友達がお菓子と一緒にこの本を送ってくれて。あんまり本を読まない子だったから何だろうと思ったら、その子の妹が選んでくれた本だったんです。妹ちゃんとは2回くらいしか会ったことなかったんですけど、その子が選んでくれたんだなと思ったらすごく嬉しくて。わくわくしながら読みました。
芸人さんってテレビであれだけたくさんエピソードトークしているだけあって、日常的におもしろそうなことを探しているみたいなんですよね。2つの道があったら無難な方じゃなくて何か起こりそうな方をわざと選ぶみたいな。岩井さんはどちらかというとアクティブな人じゃないイメージが勝手にあったんですけど、この本ではちゃんと何か巻き起こりそうな道を選んでいてイメージが変わりました。岩井さんは売れるようになってから、いままで連絡をとっていなかった昔の同級生から急に連絡がくるようになったらしくて、「私の誕生日パーティがあるから来てくれない?」みたいな誘いがきたときに、岩井さんは冷めた気持ちなんですけどそれでも行くんですよ。そのときに岩井さんの中で「こうしてやろう」というコンセプトを持って同級生のところにのぞんで行くんですけど、ただ突っ込んでいくのではなくて自分で何か仕掛ける気持ちでそっちの道に行くっていうのがすごく面白いなと思いました。「岩井さん、いいな」と思った本でした(笑)。
イケハタ 本屋さんで見て、どんな事件が起きない話を書いてるのか気になってました。
サトウ そうですね、基本事件は起きてないです。地味に何か起きてるんですけど・・・。他はおうちで家具を組み立てる話とか、じねんんじょで鍋をつくる話とか、ふふって笑える話が多いです。
ホシノ お友だちの妹さんに何でその本をサトウさんにプレゼントしたのか聞いてみたいね。
モリが選ぶ『今年の一冊』
モリ 私が紹介したいのは、稲田俊輔さんの『おいしいものでできている』です。
まずは帯を見てください。「食いしん坊はめんどうくさい」。名コピーだと思いませんか。
この本は稲田さんの食べることへの異常な愛情を異様な高解像度で書いていて、例えば第一章は「月見うどん」なんですが、「卵黄を潰した最初の一口が好きで、それを味わいたいと思うと釜玉うどんとか卵黄をたくさん乗っけた月見うどんという手もあるんだけど、でもやっぱり一口目は"儚さ"込みで美味しくて、それをひきずって食べる二口目以降も一周回って愛おしいよね」みたいな超めんどくさい思弁が展開されるわけです。最高ですね。
私は食べるのも料理するのも大好きなんですが、味覚や好み、さらにはアレルギーなんかは人それぞれなので、その食べ物をどう食べるか、というのはかなり「思いがけず」度が高いし自由な営みで面白いなと改めて感じました。
ホシノが選ぶ『今年の一冊』
ホシノ 私の一冊は、たなかやすこさん著の『ベランダ寄せ植え菜園』です。今年一番何回も開いたのがこの本かなという一冊です。
モリ でかい!
ホシノ 今年は昨年末の『料理と利他』、3月の『ダンス・イン・ザ・ファーム』、5月の『菌の声を聴け』、10月の『その農地、私が買います』と、農・食系の本の編集を担当することが続いたこともあって、俄然そちら方面への興味が高まり、自分でもやってみたいという中でこの本を見つけました。この本は、ベランダという限られたスペースと条件のなかで菜園をする工夫が詰まっていて、本書のすすめに従って我が家でも思いがけずネズミコンポストを始めたり・・・。
モリ ネズミ!?
ホシノ あ、ネズミじゃなかったミミズコンポストだ!(編集部注:秋冬の自由が丘オフィスではネズミが天井裏を走り回っています)自宅で出た生ごみをミミズコンポストで堆肥にして、それを土に混ぜて次の作物の栄養にして、できた作物を自分で食べるという循環を体感できるのも、自分のなかでは嬉しいポイントでした。
オカダ 野菜と花を一緒に植えたりもするんですね。
ホシノ そうそう、花があるほうが、虫が来てくれて受粉がうまくいくとか、逆に害虫から守ってくれるとか、著者が長年試して蓄えてきた知恵が惜しみなく公開されてます。
スガ こういうハウツー本で自分にピタッとくるのを当てるのって難しいですよね。
ホシノ たしかに。初心者のうちは、いろいろな本に手を出すよりも、一冊自分に合うのを見つけて真似するほうが入りやすいですよね。私はこの本で、たなかやすこ派になりました(笑)。
オカダが選ぶ『今年の一冊』
オカダ 私が選んだのは『Perfume COSTUME BOOK 2005-2020』です。テクノポップユニット・Perfumeの衣装761着を、年代順に載せた一冊です。Perfumeはもともと好きで、本が発売されることは前から知っていたけど、衣装はそこまで興味ないなと思って買わずにいました。でも近くの本屋さんにも置いてあって、年始のテンションで買ってしまって。今までPerfumeの衣装に特化して見たことがなかったんですが、同じだと思っていた衣装が、実はちょっとずつディティールが違っているとか、MVで着た衣装を踏まえて音楽番組に出演する時の衣装を作っているとか。3人の写真はほとんどなくて、ほぼ衣装だけの写真集なのですが、読み始めるとめちゃくちゃ面白くて。ダンスをする時の位置や見え方、または衣装替えなど、すべて計算されて作られているんだということがわかりました。
この本を読んだ後に別のアーティストのライブに行ったのですが、その人のライブでも衣装替えがありました。大きなフリルのドレスの下に別の衣装を着ていたのですが、それを見た時に「この衣装も、下の衣装のデザインが折れないように、かつ早着替えもできるように考えて作られているんだ!」とこの本と思いがけず繋がりました。
Perfumeの衣装制作にはたくさんの人が携わっていて、その方々が一年に何着もの衣装を作っていることがわかって、「全力で全部やる」という気迫が伝わってきて言葉を失いました。全部読むと「そういう歴史があってこの衣装が出来上がった!」というのが分かって面白いです。知らない世界を見せてもらった一冊になりました。
イケハタ Perfumeの着せかえ人形とかあったらいいかも・・・。
後編では京都メンバーが選んだ本を紹介します!
編集部からのお知らせ
2022年度ミシマ社サポーターのご案内
「ミシマ社カレンダー2022」
★2022年1月までにお申し込みいただいた方限定で、ミシマ社カレンダーをプレゼントします!(数量限定、なくなり次第終了となります)
募集期間:2021年12月1日〜2022年3月31日
サポーター期間:2022年4月1日~2023年3月31日
*募集期間以降も受け付けておりますが、次年度の更新時期はみなさま2023年の4月となります。途中入会のサポーターさまには、その年の特典をさかのぼって、すべてお贈りいたします。
2022年度のサポーターの種類と特典
下記の三種類からお選びください。サポーター特典は、毎月、1年間お届けいたします(中身は月によって変わります)。
◎ミシマ社サポーター【サポーター費:30,000円+税】
いただいたサポーター費のうち約25,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
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* ミシマ社サポーター新聞(1カ月のミシマ社の活動を、メンバーが手書きで紹介する新聞)
* 紙版ミシマガジン(非売品の雑誌。年2回発行・・・の予定です!)
*生活者のための総合雑誌『ちゃぶ台』(年2回発刊)
* 特典本に関連するMSLive!(オンライン配信イベント)へのご招待
※特典の内容は変更になる場合もございます。ご了承くださいませ。
◎ウルトラサポーター【サポーター費:100,000円+税】
いただいたサポーター費のうち約95,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
【ミシマ社からの贈り物】
上記のミシマ社サポーター特典と同じです。
◎ウルトラサポーター書籍つき【サポーター費:150,000円+税】
上記の特典に加えて、その年に刊行するミシマ社の新刊(「ちいさいミシマ社」刊も含む)をお送りいたします。いただいたサポーター費のうち約100,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
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