第31回
今年の一冊座談会「明るいコロナ生活」(2)
2020.12.29更新
ミシマ社では毎年恒例となっている「今年の一冊座談会」(昨年の記事はこちら)。今年も自由が丘と京都のそれぞれで座談会を行いました。今年の座談会は「明るいコロナ生活」をテーマに、メンバーひとりひとりが、今年読んだ本のなかからおすすめの一冊をプレゼンをしました。本日は京都メンバーの座談会の様子をお届けいたします。
(自由が丘メンバーの座談会記事はこちら)
タブチが選んだ「コロナ時代を明るく生きる」一冊
タブチ 今年を振り返ると、ミシマガジンの「本気で会いたいと思う人に取材する」という企画で、1月に谷川俊太郎さんに初めてお会いしたのでした。「これがすごいんだよ」と、目を輝かせながら、目の前で突如ドローンを飛ばしてくださった谷川さん。88歳の感性の瑞々しさにただただ圧倒されました。
そして、この『ことばあそびうた』は、50年近く前に発刊した一冊です。森田真生さんのラボ「鹿谷庵」の本棚にあって、「学びの未来」でお馴染みの瀬戸さんがいらしたときに森田さんの長男と一緒に読んでいたのですが、音にすればするほど場が明るくなって、世代・年齢を超えて楽しめるということに感激しました。
「幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ」という言葉がありますが、行為が意味をつくっていく側面もある。だからこそ、つらいときこそ声に出して読みたい一冊です。
ヤマダが選んだ「コロナ時代を明るく生きる」一冊
ヤマダ 僕の選んだ一冊は、スズキナオさんの『酒ともやしと横になる私』です。この書籍は、「脱力系エッセイ集」と銘打たれているだけあって、日常のちょっとしたことを題材とした、ゆる~いエッセイ集です。誤解を恐れずに言うと、まったく役に立たない本なんです(笑)。でも、そんな本こそ、コロナ時代には必要なんじゃないかな、って思いました。
タブチ タイトルをみただけではどんな本なのか想像がつかないな・・・。どんなことが書いてあるの?
ヤマダ 僕がいちばん好きだったのは、「インチキ新書の宴」という、架空の新書のタイトルを考えるという話です。新書のタイトルにありがちな、大げさで、でも悔しいかな、ちょっと気になってしまう、というタイトルを考えるっていうだけの話です(笑)。
全編を通して、日常のちょっとしたことを遊びに変える精神、みたいなのがすごいな、と思って読んでいました。コロナによって、旅行に行く、大人数で飲み会をする、など、今までの楽しみを謳歌できなくなってしまっていますが、スズキさんのように、日常のちょっとしたことをおもしろがって、楽しく、明るく生きていきたいですね。
ハセガワが選んだ「コロナ時代を明るく生きる」一冊
ハセガワ 私は『みんなでつくっちゃた』。
ヤマダ かわいい。
ノザキ わーわーわーいいですね。
ハセガワ (最初のページをめくって)「もりに しんぶんが たくさん おちて いました。」「すこし たつと しんぶんは なくなって いました。」ってなって、そのあと森の動物たちがその新聞で作った帽子とかドレスが出てきて・・・だから、みんなが作ったものを紹介していくお話なんだな、って思うでしょ?
だけど、「あめの ひは こまるけど いぬの くつ。」とか、「だいじょうぶかしら さるの ふね。」とか、新聞でできてるから、濡れちゃうし、沈んじゃうかもしれないし・・・いろんなものに変身してすごく楽しいんだけど、でも元は新聞なんだよ、っていうのが根底にあるのがすごくいいなと思って。
このあいだテレビに、ステイホームがきっかけで家事をするようになった、っていうお父さんが出てて。それが習慣になって、今もお昼のお弁当とか自分で作ってる、って。それを見たときに「明るいコロナ生活」ってこういうことなのかな、って思った。ミシマ社は今年、MSLive!とかサマースクールとか、新しいこと、前向きなこともいっぱいはじまったけど、一方で、コロナで実際に苦しんでいる人とか、医療現場の人たちとか、大変なことがなくなったわけじゃないから。どっちも全部ひっくるめて毎日は続く、っていうのが、この本に通じるかな、って思いました。
ヤマダ 本物の新聞っていうのがおもしろいですね。
ハセガワ そう。内容も・・・何年の新聞なのかな?昔の野球選手とか、テレビ欄も。最後のページに使われている新聞には、自分たちで内容を考えたほうが新聞って面白いよね、だからみんなで学級新聞を作ろう、みたいな内容で。こういうのも意識して使ってるのかな?おもしろかったです。
ノザキが選んだ「コロナ時代を明るく生きる」一冊
ノザキ 私はこれです。北野勇作さんの『100文字SF』。著者がTwitterで2015年秋ごろから発表していた2000篇近くの「ほぼ百字小説」のうち、200篇を厳選した一冊です。まず表紙が印象的で、ふつう本の表紙って、タイトル、著者名、出版社名が書かれていると思うんですが、いやこの本もそれはちゃんと書いてあるんですが、真っ白な背景に、著者名とタイトルを使ったほぼ100字の一作目がのっています。ページをめくっていくと、ほぼ100字がえんえんとつづき、表紙、本文にとどまらず、帯の推薦文や、裏表紙の紹介文、巻末に掲載されたハヤカワ文庫の関連書紹介に至るまで、執念のほぼ100字フォーマットが潔い・・・。
ハセガワ えーー全部100文字!?
ノザキ そうなんです。本を選びながら一年を振り返ったときに、「今年は疲れたわ」というのがまず思ったことでした。新型コロナの状況で、先の見えない不安もあったし、緊張感もあった、それでも仕事はありがたくも続けられていて、でも忙しかった、パーッと発散もできないし・・・生活のなかで体と気持ちをゆるめるタイミングと方法を失った感覚がありました。ずっとオン。風邪をひいて体を整える、みたいなこともできなくなった。
そういうときに、喉がかわいたから水を飲む、ぐらいに何も考えず、詩集や歌集を手に取ったんです。自分はこれまであまり馴染みがなかったジャンルだったのですが、吸い込まれるように読みました。それで言葉に癒された。この『100文字SF』に感動したのもその延長にあって、限られた文字数のなかで、こんなにも認識とかルールとかそういう染み付いてしまっているものをずらせるのかと驚いたんです。
今年大前粟生さんとつくった『岩とからあげをまちがえる』もだれかにとって、そんな一冊になったらいいなと思っています。
タブチ おお。ノザキさんに今度おすすめの詩集貸しますね。
ミシマが選んだ「コロナ時代を明るく生きる」一冊
ミシマ 「今年の一冊」のは、「非常時代を明るく生きる」。「ちゃぶ台」リニューアル号のテーマで選びました。
その観点からぱっと思いついたのが、この本、というか、まだ本になっていませんが、尾崎世界観さんの書き下ろし中編「母影」(「新潮」2020/12収録)です。
念のため申しますと、いわゆる「明るい」話ではありません。ただ、絶望でしかない状況でかすかな希望があるとしたら? を問う本作は、明るさや楽しさは「笑顔あふれる幸福な」というイメージではないと藤原辰史さんが言っている(「分解とアナキズム」「ちゃぶ台6」)のに通底するとも感じました。
面白いのは、本作で描く希望は、光ではなく「影」なんですよね。影に希望がある。いや、希望になる可能性を秘めている。そして、その影を映し出す存在が、カーテン。このカーテンがとてもおおきな存在感をもって描かれています。
家を選べない、移動できない、お金を稼げない、学校も世間もきびしい・・・子どもは自分で選択できないことがあまりに多い。結果、家庭しか行き場がない。そんな息苦しい環境に身を置く子どもはどうすれば救われるのだろう? ひとつは、それだけは誰も奪えないものとして、多くの物語が描いてきたように「想像力」なのは間違いない。では、それ以外には? きっと、そのひとつが本作におけるカーテン的なものに気づくことなのだろう。カーテン的なものとは、そちらとこちらを隔てるものであり、そちらとこちらをうっすらつなぐものでもあり、影を映すところでもある。
世界は無数のカーテンであふれている・・・。それに気づき、発見すれば、世界そのものは変わらずとも、世界の見え方は変わるのだ。
そして、それを可能にするのは、想像力ではなく、手であったり、カーテン越しのしめりであったり触覚が大きな役割をはたす。
といった構造のなかで本作は書かれたように思った。同時に、その構造は尾崎さんの「世界観」が色濃く反映したものというより、その「思想」がにじみ出たものであるように感じた。
2年前、「祖父と」という短編を寄稿してもらったことがある(「ちゃぶ台4」収録)。そのときより、文体の重心がずっしり重くなっている。そんな作家のたのもしい変化を感じられた点でも本作は私にとって、希望の作品以外の何ものでもない。
***
ハセガワ みんなの話を聞いていて、「明るいコロナ生活」っていうテーマ自体、こんな色々なとらえ方があるんだ、とわかっておもしろかったね。
一同 本当にそうですね~。
ハセガワ どう、今のまとめっぽい?(笑)
(終)
編集部からのお知らせ
2021年度ミシマ社サポーターのご案内
募集期間:2020年12月1日〜2021年3月31日
サポーター期間:2021年4月1日~2022年3月31日
*募集期間以降も受け付けておりますが、次年度の更新時期はみなさま2022年の4月となります。途中入会のサポーターさまには、その年の特典をさかのぼって、すべてお贈りいたします。
★2021年1月までにお申し込みいただいた方限定で、ミシマ社カレンダーをプレゼントします!
昨年つくったミシマ社カレンダー。今年もこんな感じでつくっています。
2021年度のサポーターの種類と特典
下記の三種類からお選びください。サポーター特典は、毎月、1年間お届けいたします(中身は月によって変わります)。
◎ミシマ社サポーター【サポーター費:30,000円+税】
いただいたサポーター費のうち約25,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
【ミシマ社からの贈り物】
* ミシマ社サポーター新聞(1カ月のミシマ社の活動を、メンバーが手書きで紹介する新聞)
* 紙版ミシマガジン(非売品の雑誌。年2回発行・・・の予定です!)
*生活者のための総合雑誌『ちゃぶ台』(年2回発刊)と今年度の新刊1〜2冊(何が届くかはお楽しみに!)
* 特典本に関連するMSLive!(オンライン配信イベント)へのご招待
* ミシマ社オリジナルグッズ
・・・などを予定しております!(※特典の内容は変更になる場合もございます。ご了承くださいませ。)
◎ウルトラサポーター【サポーター費:100,000円+税】
いただいたサポーター費のうち約95,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
【ミシマ社からの贈り物】
上記のミシマ社サポーター特典に加え、
*ウルトラサポーターさん交流会
◎ウルトラサポーター書籍つき【サポーター費:150,000円+税】
上記のウルトラサポーター特典に加えて、その年に刊行するミシマ社の新刊(「ちいさいミシマ社」刊も含む)を全てプレゼントいたします。いただいたサポーター費のうち約100,000円分をミシマ社の出版活動に、残りをサポーター制度の運営に使用いたします。
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