第95回
キセキの島々、天草に観光を。
2026.09.11更新
8年も10年も11年も......それぞれに歳月の重なりと心地よい忘却があり、掌に残る香りの価値に貴賎はないはずだ。なのに、人はなぜか10年という歳月に、ひとつの区切りを感じる。
そういった習性が、自然と総括や振り返りを生むのだろう。だからこそ、また気持ちを新たに大きな一歩を踏み出せる。人間とはそういうものなのだ。
熊本にとって、今年はまさにそういうタイミングだった。益城町を中心に最大震度7の大きな地震が二度も発生し、大きな被害をもたらした、平成28年熊本地震。あれから10年というタイミングで、どこまで復興がすすんだか、またどれほど復興への道が遠いか、そういったことを確認し、内外に届け、未来へ向かっていく。そんな気持ちで前を向いていた熊本に、震度7の地震がまたしても発生した。
2026年7月28日16時27分。熊本県宇城市と八代郡氷川町で震度7を観測。その被害の大きさはもちろん、10年前を振り返ることをさせてくれない自然の残酷さを前に、熊本の人たちの心労は計り知れない。
「10年おきにこんな地震が来られたら堪らない」
安否を確かめるために送ったLINEに対する知人の返答が忘れられない。1年間の多くを旅に費やすぼくは、熊本に行く機会も多く、せめてもの気持ちで災害ボランティアに行ってきた。
ボランティアと言っても、その内容を平たく言えば掃除だ。東日本でも能登でも、また各地で頻発する大雨の被害においても、揺れや浸水で大変なことになった家屋に行って、家財道具一式を綺麗に片付け、その多くをごみとして処分するというのが、ボランティアの活動の中身だ。
名古屋大学の平山修久さんという災害環境工学の先生の調べによると(読売新聞・日経新聞報道より)、今回の震災における熊本県全体の災害廃棄物は約111万トン。これは熊本県の通常のごみ排出量の約2年分もの量だ。
たった数秒数分の揺れが、これほどまでに凄まじい量のごみを発生させるのだ。しかもこの約2年分というのは熊本県全体での数字でしかない。これを被害が大きい八代市で考えると平年比7.7年分、宇城市は14.5年分、さらに氷川町のような小規模な自治体にとってはなんと22年分ものごみが一気に出たというから凄まじい。
震災を経てなお、前を向く。
こういった言葉は、ごみを片付けてからの話だ。まずは目の前の瓦礫を片付けないことには、未来など描きようがない。まずは座れる場所。寝転がれる床が見えてこないと、次のフェーズになんていけない。だからぼくは無理のない程度に掃除を手伝いに行く。
そしてもう一つ、大事なのが「観光」だ。
それこそ、10年前の地震の際には『るろうにほん 熊本へ』という、震災を経て再び日常の歩みをスタートした熊本の人々に、俳優の佐藤健くんが話を聞いてまわりながら、県内の観光スポットを紹介する一冊を出版したが、あのとき、健くんがしきりに言っていたのも「観光需要の復活」だった。
ライフラインの復旧や、法的な手続きの相談など、生活を取り戻すために必要なものが多くあるが、それらのお手伝いはスキルのない者にはできない。しかし観光需要の再生には寄与できるのではないか。それが彼の意見で、あの一冊が生まれた。
こういうときに、このように考え行動できる人間性にぼくはとても驚いたし、惚れ込みもした。ぼくが「掃除くらいなら」とボランティアに行く心の奥底には、少なからず彼の影響がある。
大きな災害があると、伴って直接被災していない周辺の観光需要が大きく減少する。物理的にも気持ち的にも、いまはやめておこうとキャンセルしてしまう気持ちも当然だから、一定は致し方ないと思いつつ、徐々に交通インフラが回復し、余震などの心配が減ってもなお、簡単にその需要が戻らないのが現実だ。
特に今回は、天草や阿蘇といった地域の観光業に深刻な打撃を与えている。ぼくは昨年とあるご縁をいただいて、天草にある御所浦島という島の本をつくり、今年の春に出版した。タイトルは『キセキの島』。御所浦ZINE編集部という、ぼくが御所浦に訪れる少し前に立ち上がったという島の仲間たちとともにつくった本だ。
そんなこともあり、何か手伝えることがあるなら天草に行くと友人たちにLINEするぼくに、彼らは「大丈夫です。天草市は幸いにも大きな被害は確認されていないので、支援いただけるならぜひ被害の大きい地域での活動に協力いただけたら嬉しいです」と返ってきた。
それはそうなんだけれど......。
地震後の観光人流データを見ると、天草市の宿泊者数は前年比 50.4% 減、上天草市は 45.6% 減と、熊本県内で最も大きな減少率を記録している。
宿泊キャンセルの被害額は、天草地域全体で 2 万 6,911 人泊。約4億 6,500万円に上る。九州新幹線が不通となった影響もあり、鹿児島・長崎など隣県への周遊ツアーも中止になっているし、離島・半島という地理的特性もあって、交通アクセスの悪化が観光需要に直結してしまっている。
前述の『キセキの島』は、本来、天草に訪れないと買えない本にしようと言っていたのだが、もうそんなことは言ってられない。どうかぜひ、この本を買ってほしい。そしてこの本を持っていつか(できるだけ早いうちに)天草を観光してほしい。





