第96回
ECOステーションの編集
2026.10.10更新
秋田県横手市出身のシンガーソングライター・高橋優くんが主催する「秋田キャラバンミュージックフェス」が、今年も無事に終了した。日本全国でローカルフェスが増え続ける昨今だけれど、毎年会場を移して県内13市を巡る「キャラバン型」はめずらしい。8回目の今年は秋田県にかほ市で、9月26日(土)と27日(日)の二日間ひらかれ、来場者はおよそ16,000人。それだけの人たちがにかほ市に訪れてくれるのだから、本当にすごいことだ。
そもそもぼくは、遠く兵庫県からにかほ市まで、毎月のように通っていた時期がある。それゆえに友人知人も多く、一層気持ちが昂っていたこともあるのだが、それ以前に今年のにかほの注目度はずば抜けていた。
というのも、にかほ市出身の漫画家・藤本タツキさん原作の『ルックバック』が是枝裕和監督によって実写映画化され、このタイミングでちょうど公開を迎えたのだ。多くのシーンがにかほ市内で撮影されていることもあり、ぼくも早々に観にいったけれど、冒頭十数分で涙腺が崩壊するほど感動した。そこに映っていたのは、兵庫から毎月通い続けた、当時のぼくの目に映るにかほそのものだと思った。何度も立ち止まってはシャッターを切ったあの風景が、あのときの感情が、そのままスクリーンのなかにあった。
しかも『ルックバック』のポスタービジュアルをはじめ数々のスチール写真を撮ったのは、15年ほど前にうちの会社でデザイナーとして働いていた写真家の濱田英明だ。そんな偶然も、ぼくの感情をより揺らしたのかもしれない。
彼が切り取った象徴的なシーンに限らず、春とも夏とも秋とも冬とも言えない、なんでもない日常のにかほがスクリーンにあった。その暮らしの厚みが、物語を信じられないほど強く支えていた。とにかく素晴らしい映画だった。
だからほんのすこし聖地巡礼のような気持ちもあって、今回、にかほに訪れること自体が随分楽しみだったのだ。
そんなふうに、どうしたって思い入れの強いにかほだから、いよいよフェスがスタートした瞬間の感動もひとしおだった。
キャラバンフェスは毎年開催地が変わるゆえ、最初に市長が挨拶をするのが恒例となっている。にかほ市長の市川雄次さんはぼくもいろいろとお世話になっていた方で、普段の姿を知るだけにこちらまで観ていてドキドキしたけれど、歓迎する気持ちが伝わるよい挨拶で、客席も盛り上がっていて安心した。
遠方からやってきた人たちにとって、その土地の人がその土地の言葉で迎えてくれるほど嬉しいことはない。フェスのはじまりとして、これほど最高なはじまりはなかなかないよなあと毎年思う。
ちなみにぼくは毎年、このフェスに訪れる人のためのガイドブックの編集長を務めている。今年は特に、ロケハンにはじまり取材当日まで、大好きなにかほに訪れる機会が増えてずいぶん嬉しかった。そんなガイドブックや、事前告知の動画などの制作に責任を持つことが、ぼくの大事な役割なのだが、コロナ禍以降は、会場内のECOステーションの運営も任せてもらっている。
それもこれも、高橋優という人間の、秋田に対する思いと覚悟を感じて、なにかもっと踏み込んで協力できることはないだろうかと考えた結果だった。最初のうちこそ、フェス当日はぼく自身も一観客としてライブを楽しませてもらっていたけれど、いや、むしろそうやってお客さんとして楽しませてもらった経験を経たからこそ、見えてきたことがあった。
それは会場のごみステーションについてのことだった。個人的な興味から、ごみの行き先について考える機会が多かったぼくは、フェス会場で出るごみ回収の仕組みをもう少し編集できないだろうかと考え、コロナ期間中のお休みを経たフェス再開時から、ECOステーションの運営を任せてもらうようになった。
ECOステーションというのは、要はフェスのごみ回収コーナーのことだ。フェスのメインはもちろん音楽だけれど、せっかくのローカルフェスならば、お客さんは秋田の風土を感じる食べ物も楽しみたいはずだ。そこで、美味しい秋田の食べ物でフェスをさらに盛り上げたいと、地元秋田のお店をベースに多くの屋台が会場に並ぶ。それらを楽しんだあとのごみの分別を促すのが、ぼくらの役割だ。
いまぼくは分別を促すと書いたが、ここには少しこだわりがある。つまりは、できる限りお客さんの手で分別してもらう。これが秋田キャラバンフェスのECOステーションの特徴になっている。
いわずもがな、そういう分別作業の大事さを知ってもらいたいことと、いまあなたがやっているその行為を、知らない誰かがやってくれているのだということに気づいてもらいたいからだ。
ここ数年は、ポッドキャスト番組『ひらけごみ!』のパートナーである寺井正幸くん(株式会社ごみの学校)にも協力してもらい、ごみ回収のオペレーションがどんどん進化している。
ごみの学校は、もともとごみをテーマにしたオンラインコミュニティからスタートしている。そこで寺井くんは、ごみを「処理するもの」というより「考えるもの」として扱っている。だからこそフェスの現場でも、ただ手を動かすのではなく、必ず調べる。ごみの学校のメンバーが毎年、開催中のごみの調査をしてくれるのだ。その結果をもとにオペレーションを少しずつ変化させている。
たとえば、前回のフェスからスタートしたリユースカップの導入もそうだ。前々回のごみ調査の結果、ビールやチューハイなどの飲料用プラスチックカップが捨てられる割合が圧倒的に高いことがわかり、最初のステップとして、このプラカップごみを減らすことが一番じゃないかとはじまった。
リユースカップは500円のデポジット制で、退場時にカップを返却いただければ500円をお返しする仕組みになっている。今年もたくさんのお客さんが活用してくださって、とっても嬉しかった。カップのカラーが開催年によって変わるので、もちろん記念に持ち帰っていただいてもいい。存分に活用して返却いただくことも、そのまま持ち帰ることも、プラカップごみの減少に繋がるので、ぼくたちとしてはどちらの反応も嬉しいのだ。
ほかにも今年は、リサイクル率の高さがトップクラスのダンボール紙を使ったごみ箱を、京都にある強化ダンボールメーカーさんとごみの学校と共同で開発。それを実際に使ってみるなど、あらたな試みをいくつかスタートさせた。
個人的に大きかったあらたな試みは、にかほ市の名所や名店などを優くんと一緒に巡ってつくった、秋田キャラバンガイド・トレーディングカードの販売だ。
トレカがECOステーションとどう関係があるのか不思議に思われるかもしれないが、じつはこのトレカの売上がECOステーションの運営に役立てられる。
フェスを存分に楽しんでもらおうと思ったとき、目立たないけれどとても重要なのが、ごみの処理やトイレなどの会場インフラだ。だからこそECOステーションの運営はとても重要なのだが、現実問題、ボランティアの方たちの協力あってこそ成り立っているのが現状だ。いま手伝ってくれている仲間たちは、高橋優を支えたいとか、秋田人として県外からのお客さんを歓迎したいとか、それぞれに思いをもって手伝ってくださっているけれど、物価上昇が止まらない世の中で、出費だけがかさんでいくことで疲弊してしまっては意味がない。そうなる前になんとか手を打たねばと思って考えたのが、ECOステーション運営に役立てるためのトレカ販売だった。
とはいえ、ぼくたちとしても初の試みだから、どれだけ理解してもらえるか、そもそも楽しんでもらえるかは正直不安だった。しかし結果は、二日間で2,000セットを超える数のトレカが旅立っていき、なんとか損益分岐点を超えた。決して大きな額ではないものの、出ていくばかりだったECOステーションにおいて、はじめて利益を出す構造を持つことができた。この編集はぼくにとって、とても大きい。
もちろん、この仕組みが成立したのは、優くん本人やマネージメントのみなさんの協力が不可欠で、そういった提案をいつも前向きに捉えて、現状を理解しようとしてくれるみなさんには、ほんと感謝しかない。
実際このトレカは、売上がECOブース運営につながること以上に、カードそのものが、にかほの魅力の表現になっていることが大きい。事前にガイドブックを入手できなかった人たちが、フェスに来て、カードを購入し、そこにあるスポットを前に、この町にはこんなところもあるのかと知り、帰る前にそこに立ち寄ってくれることもあるだろうし、にかほ再訪のきっかけになるかもしれない。
来年、次の街に移動してもまたこの企画は進めていければ嬉しいし、フェスそのものを一層楽しんでもらえるように、ECOステーションもさらに進化していきたいと思う。編集の余地はまだまだある。





