仕事を「道」として深めるには? 倉貫義人×堀部安嗣対談(前編)
2026.10.15更新
2026年9月28日、東京の青山ブックセンター本店にて、『自分と社会をいい感じにする仕事技芸論』(倉貫義人著、ミシマ社)の刊行記念イベントを開催しました。
本書の著者で、システム開発会社ソニックガーデンを率いる倉貫義人さんと、『建築と利他』(ミシマ社、中島岳志さんとの対談)の著者、建築家の堀部安嗣さん。この日が初対面のお二人でしたが、互いの本を読んで感じていたのは「やっていることが近い」ということでした。
クライアントと仕事をするために大事にしていること、どれくらいの時間のスパンで仕事を捉えるか、現代の師弟関係にどう取り組んでいるか・・・。システム開発と建築、分野の違うお二人の「仕事の道の深め方」、前後編でお届けします。
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言うことを聞く、でも真に受けない
倉貫 堀部さんの『建築と利他』を読んで、とくに共感したのが、クライアントの仕事ではあるけれど、見ているのはクライアントだけじゃない、というところでした。自然や環境まで、全体を見たうえで設計を進めていく。僕らがシステムを設計するときにやってきたことと、とても近いと思いました。
堀部 建築では、建て主、設計事務所、施工会社の三者が主人公です。大事なのは、それぞれが言うことを聞き合って、真に受けないこと(笑)。クライアントは、どうつくっていいかわからないから設計事務所に依頼しているんですよね。30年後まで見通して計算することはできない。だから希望はとても注意深く聞くけれど、真に受けることはしない。そんなに部屋数はいらないでしょうとか、子どももあと5年すれば家を出るし、掃除も光熱費も大変ですよ、とかいうことをお伝えすることも多くて、適正規模を見出すことが、最初で最大の仕事だと思っています。
回転寿司と、握る寿司屋
倉貫 「こういう家を」と頼まれても、「違う」と返すこともあるんですか?
堀部 どんな家が欲しいかというイメージや希望は、いったんはすごく聞きます。でも、漠然と願っていることを具体的な数字やスペックに落とし込むのは、こちらに任せてほしい、と。回転寿司は好みを全部選べるようでいて、実はお客さんの本当の希望には応えていない側面があると思うんです。一貫ずつ握る寿司屋は、「マグロが食べたい」と言われても、「今日はおいしくないよ、こっちがいいんじゃない」と、その人の今の心身に合うものを考えてくれる。それに近い気がします。
倉貫 そのお話にはほんとうに、シンパシーしかないです。システム開発の世界では、まずお客さんが欲しい機能を決めて、何社かに見積もりを出させ、いちばん安いところに発注するのが一般的です。でも、お客さんは本当に欲しいシステムが最初からわかっているわけではない。それでも、決めないと見積もれないから決めてください、となる。使い始めてから、やっぱりこの機能が欲しかった、消費税率が変わった、ということが起きても、つくった人たちは納品したらもういなくなってしまっている、ということが起きがちです。
堀部 そういうパターンは多そうですね。
倉貫 僕らは、何をつくりたいかという相談から入ります。本当に欲しいものを聞いて、必要最低限からつくっていく。しかも月額定額でやっているので、たくさんつくっても儲からない。
以前、システム開発に何度も失敗して「要件をちゃんと決めなきゃいけない」と、分厚い資料を持ってこられたお客さんがいました。でも「一旦それは置いておきましょう」と話してやりたいことを聞いていったら、そんな要件は全然いらなくて、お金もたいしてかけずに始められることがわかった。まさに適正規模ですね。
小さくつくるほうが、得になる
倉貫 システム業界には「人月」という悪名高い見積もりがあります。でも、10人集めたら10人分の仕事ができるかというとそんなことはなくて、その見積もり方が業界の構造を歪めている側面は大きいと考えています。だから自分の会社では、納品をせずに月額定額で継続的にクライアントとお付き合いをしていくビジネスモデルにしています。一方で建築事務所は、工事費の何パーセントという報酬の設定があるじゃないですか。適正規模にすると、売上が下がってしまいませんか?
堀部 そうなんです。たとえば100坪の家を設計してくださいとクライアントから言われても、よくよく考えてみたら50坪でも十分ご希望が叶いますよと言ってしまったら設計料の報酬も減ることになります。商売としてはダメですね。でも、もったいないとか、もっとお金を取りたいと思ったことは一度もないですね。贅肉だらけの設計はその後に問題を起こすし、それに対処する労力のほうがよほどもったいない。住みやすく維持しやすい家をつくると、10年後、20年後にまた別の依頼をいただいたり、口コミで仕事につながったりする。トータルで考えたら、そのほうがずっと得なんです。何よりそのほうが、やっぱり気分がいいですよね。
倉貫 とても大事なことだと思います。僕らもよく「その機能、本当にいりますか」と言います。先ほどの「人月」の考え方で、つくればつくるほどお金がもらえる仕組みだと、どうしてもつくってしまう。でもシステムは、量が多いほど直しにくくなるんです。
堀部 ずっと月額定額で、クライアントと並走していくわけですよね。
倉貫 そうです。自分でつくったものが直しにくいと自分が困るので、最初から手入れしやすいシステムにします。たとえば、僕ももとはエンジニアでしたが、プログラムはコピー&ペーストで同じ画面をいくらでもつくれてしまう。でもそうすると、あとで直すのが大変になる。本当は工夫して、一カ所に機能をまとめたりしておいたほうがいいのに、納期に追われると「コピペでいい」となってしまうことが起こりうる。エンジニアは、本当はいいものをつくりたいんです。プライドを曲げて妥協しないとビジネスが成り立たない、そういうエンジニアの良心が壊される状態が悲しかった。納品をなくしてしまえば、適当につくって痛い目を見るのは自分なので、いいものをつくるしかなくなるんです。
物はなくても「手触り」がある
堀部 建築は、手や足や肌で直接感じるものですが、一方で倉貫さんがつくられているのは直接手で触れるものではないですよね。システムのことはほとんどわかっていないので、見当違いな話をしてしまうかもしれないのですが、僕は大学まではテレビゲームを一切やらなかったんです。それが、独立して暇になってプレイステーションを買い、そのあとで任天堂のハードで任天堂のソフトをやったら、なんだこれは、と。ゲームのプログラムにも手触りのよさがあるんだと驚きました。ハードとソフトがうまく融合していて、温かいというか。
倉貫 物理的な手触りはないですけど、使っていて気持ちいいかどうかはありますよね。
堀部 マイナアプリで、顔認証でOKが出たあとに、強烈な画面がドン出てきて「もう一度お試しください」と書かれていたときは本当に悲しかった(笑)。
倉貫 (苦笑)。それからたとえば法人のお客さんで、経営者が事業の方向を少し変えようと決めて、翌月にはもうそれに対応するシステムができているなら、これも経営から見たときの手応えなんだと思います。
堀部 無駄がなく、クライアントに必要なことが必要なだけ表現されている、ということですね。メンテナンスもしやすいし、ブラックボックスもなくなっていく。




